書籍修繕という仕事

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表紙の明朝体(少し古い感じの骨格)と題名との調和が美し過ぎて、そのまま購入。本文組版も個性と読みやすさが両立していて素敵。読み終えて、著者の本に対する姿勢に共感。物理存在としての「本」の魅力について再認識できた。本が好き。

 

一時、「わたしは傷んだ本を直す人間だ! 書籍修繕以外のことは本来の業務じゃない!」と信じていた、いや、信じたいと思っていたこともある。でも現実はそう甘くはなかった。税務、会計、広報、相談などを一切アウトソーシングできるほどの余裕がない「一人営業者」の場合、結局それらすべてが自分の本来の業務であり、そう考えなければ仕事が回っていかないのだった。(p.70)

 

しかも最近は、希少書籍の場合、修繕を受けたとしても、実物は念入りに梱包されて暗い保管室に入れられ、特殊スキャンなどでデジタルアーカイブしたものをオンライン上で公開するケースのほうが多い。そのため、本が一つのモノとして人の心にどれほど深く入り込め、どんな痕跡をどれほど色濃く残せるのか、真剣に考える余地はあまりなかった。(p.73)

 

なかには「本一冊直すのがどうしてこんなに高いのか」「なぜそんなに時間がかかるのか」などと不満を口にする人もいる。そういう人に説明し、理解してもらおうとする過程は、ジェヨンさんの心に傷を残す。仕事から得られる喜びや楽しさがいくら大きくても、その傷は傷として残る。そのため、自身の技術があまりに軽んじられていると感じるときは、相手に理解してもらうのは諦めて、きっぱりと依頼を断り自分自身を守るようにしているのだそうだ。(p.231)