全体的に、科学書というよりは一般向けの読み易い内容なのに、ところどころでコアな知見がさらりと書かれていて、あざとい(褒め言葉)本でした。
イルカの耳は眼の後方にある小さな穴のようなものである。しかしこの耳は外耳道に耳垢が詰まっているので、ここから音が伝わっているとは考えにくい。(p.51)
色覚については昔から多くの実験が行われてきたが、「この色がわかる」といった決定的な成果は挙がっておらず、最近ではみな色覚の有無を突き止めることはあきらめてしまったように見える。(p.54)
イルカを研究するスタイルについても、その違いは歴然である。
かつては、洗いざらしのシャツに長靴に胴長という姿で、男も女も関係なく、泥だらけ汗だらけ、時には血だらけになって、髪振り乱しながらイルカを「とっつかまえて」研究材料にしていた。(p.109)
第1章で説明したように、イルカはもともとは陸棲の動物であったものが、海の生活へと移行した。そのとき、水中で暮らすうえでは何かと邪魔な四肢を失った。もし彼らに四肢があったら、「叩く」「揺する」「蹴る」など、もっと別な意思表示やコミュニケーションの方法があったかもしれない。
また、イルカは水棲生活への移行にともなって体毛を失った。怒ったときに逆立てる毛をなくしたことになる。こうしたからだの変化の結果、彼らは音や視覚の感覚を研ぎ澄まし、それらに依存したコミュニケーション手段を発達させた。(p.168)