穂村弘にしては緩めのエッセイだな、と油断して読み始めたのだけど、最後まで読んで、これは周到に計算され尽くされた恋愛小説だと気付いた。
- 作者: 穂村弘
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2017/01/25
- メディア: 文庫
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穂村弘にしては緩めのエッセイだな、と油断して読み始めたのだけど、最後まで読んで、これは周到に計算され尽くされた恋愛小説だと気付いた。
柳瀬尚紀という人について「フィネガンズ・ウェイクを翻訳したすごい人」としか知らなかったのだけど、たしかにすごい人だと確信した。でも、あまりに素晴らしすぎて、翻訳の一行ごとに1ページくらいの解説がないと、私には理解できないと思う(つまり、フィネガンズ・ウェイクは読まないと思う)。
フィネガンズ・ウェイクはともかく、この本は「翻訳」ではないので、解説なしでも楽しく読めた。とても良い本。
一方で、いわゆる教育漢字・当用漢字・常用漢字については、当時の政府だけを悪者よばわりしていて、「こんなすごい人でも浅はかな理解で断言しちゃうことはあるんだな」と、ちょっと悲しい気持ちになった。
政府というか文部省というか、今でいう文部科学省、あるいは国語審議会……ぼくはそういうお役所や組織についてよく知りませんが、要するに漢字のことをてんでわかっちゃいない人たちの集りが(以下略)(p.23)
よく知らないという自覚があるなら、こういう本には書かないで欲しい。
何を読んでいいか分からなくなると、つい軽めのミステリーを選んでしまうのだけど、選んだつもりだったのだけど、これが壮大なスケールの犯罪で、驚く。服部くん(変態)が魅力的。面白かった。
中高生向けの本だと、買った後で気付いたのだけど、ちゃんとした「科学の本」で、とても良い読後感でした。満足。
植物はなぜ動かないのか: 弱くて強い植物のはなし (ちくまプリマー新書)
「科学の本ではないな」という予感はあったけど、著者の一人目が学者さんだったので、もしかしたら大丈夫かも、と思って借りてみた。科学の本ではなかった。
植物の本を読みたかったので、後悔はしてない。
植物は〈知性〉をもっている 20の感覚で思考する生命システム
①植物の本はほとんど読んだことがなかったので新鮮だった。②遺伝子研究の手順(地道な作業の繰り返し)が少し分かった。分かったような気がする。
植物の生存戦略―「じっとしているという知恵」に学ぶ (朝日選書 821)
先天的なものと後天的なものを区別しないのが気になる。でも、そこに触れると別の本になってしまうので、意図的に無視したのかもしれない。
「頭足人(とうそくじん)」のくだりが(科学的に正しいかどうかは別にして)面白かった。
ブラックとコメディとミステリーが、ほどよく配合された連作短編集。楽しく読めた。
あ、あと、青春も配合されてます。
(P[わ]1-1)プラスマイナスゼロ (ポプラ文庫ピュアフル)
語りかける口調の専門書。研究人生の集大成のよう。もしかしたら科学を前提にしたエッセイなのかも。
2018 年のパインぱんの人。妻のパインぱんフォルダより(妻に感謝)。
いつでも羊の皮をかぶってる人だと思ってたのだけど、このエッセイでもかぶってはいるのだけど、ちらちらと中身が(羊じゃない生き物が)垣間見えるので、ちょっと怖かった。
進化や化石のを扱う本は、どこかセンセーショナルだったりロマンチックだったりしがちだけど、この本は抑制が効いていて良かった。何というか、その、教科書みたいな安心感があった(ほめ言葉です念のため)。
11の化石・生命誕生を語る[古生代] (化石が語る生命の歴史)
タツノオトシゴのことを知らないな、と実感した一冊。タツノオトシゴのことを前より少し好きになった。
以下、タツノオトシゴを好きになるエピソードの引用。
ベトナムのある漁師は、タツノオトシゴの保全に関する議論の際、「みずから漁具につかまるような愚かな魚をどうやったら保護できるんだい?」と言ってきました。(p.25)
タツノオトシゴは、驚くとより強くモノにつかまるので、そのモノと一緒に流されてしまったり、新たにつかまるモノを見つけるために時間がかかってしまうと、探索のために危険な時間を過ごすことになります。(p.25)
一方でタツノオトシゴは、驚異的な帰巣能力をもっています。H. guttulatus のある個体は 150m も離れたもとのつかまるモノに 8 日後に戻り、別の個体は 60m 離れた元の場所に 1 日で戻ったことがが観察されました。(p.25)
「驚異的な帰巣能力」のスケール感が 150m。
たとえそれが、種の保全という本質的な価値ではなく、薬の原料としての価値を守るためだとしても、彼らもまたタツノオトシゴが存続することを望んでいるのです。(p.49)