「色のふしぎ」と不思議な社会

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二度読んだ。予想より内容が濃くて冷静に読めなかったから。

 

進化の「事例」としての「色覚の多様性」が興味深かった。でも、それ以上に、著者自身が「実は色覚異常ではなかった」と発覚するくだりが、著者の価値観の変化が、心に刺さった。それぞれの人にそれぞれの人生と価値観があるのだろうな、そしてそれは科学の進歩と無関係ではないのだな。と改めて思った。

 

該当箇所引用。

 

正常なのだから、単純に喜んでおけばいいと言われるかもしれない。しかし、実に半世紀近く先天色覚異常の当事者であることを受け入れてきたのに、その自己イメージを急に引き剥がされるというのは、ちょっと別の体験である。

(略)

「本当ですか?」と問いかけながらも、ぼくは決して幸せな気分ではなく、むしろ、自分の自分らしさの一部を引き剥がされる胸の痛みをますます強く覚えた(p.204)

 

「あとがき」からも。 

 

今、本書を終えるにあたって、つくづく思う。

自分が「異常者」と呼ばれるのはすごく嫌だが、だからといって「正常」に分類されたいわけでもない、と。

正常と異常の境界が溶けてしまった連続的な「色覚スペクトラム」、あるいは「色覚多様性マップ」の中に、「自分はこのあたり」と居場所をみつけられれば、それでよい。

ぼくはこのようにある。生まれ持った色覚は優れてもいなければ、劣ってもいない。(p.330)

 

あと、気になった箇所の引用。

 

ぼくは本書の中で、科学啓蒙主義的な記述を繰り返すことになるが、実は科学的であればそれが常に正しいという考えは素朴すぎることもあらかじめ強調しておく。(p.21)

 

「例えば、着陸の時に空港から示される PAPI のライトは赤と白ですが、その識別は正常色覚でも時々間違う人がいます。私たちが調べた 63 人の正常色覚者の中にもまちがえた人が 7 人おり、少なくとも 3 人は優位に間違いが多い結果になりました。ところが、CAD の閾値が 12 ユニット以下の 1 型の異常 3 色覚者はむしろ成績がよいくらいでした。2 型については、6 ユニット以下で同じことが言えました」

このような、一見、不思議に思えるけれど、繰り返しテストされて確かめられた事実は、旧来の色覚検査では発見できないことだ。たとえば、バーバーが石原表と PAPI のシミュレーターでのテストを付き合わせて確認したところ、石原表「正読」の割合と PAPI のスコアにはよい相関が得られず、どこで線を引けば安全を担保できるのか手がかりにはならなかったという。(p.226

  

ただし、スクリーニング検査にはクリアすべき諸条件がある。「原則と実施」に挙げられているものを、中澤が講義に使っているテキストから引用する。カッコ内は中澤による注釈だ。

  1. 目的とする疾患が重要な健康問題である。
  2. 早期に発見を行なった場合に、適切な治療法がある(治療法がないと「負のラベリング効果」になることがあるため、スクリーニングはしない)。
  3. 陽性者の確定診断の手段、施設がある。
  4. 目的とする疾病に潜伏期あるいは無症状期がある。
  5. 目的とする疾病に対する適切なスクリーニング検査法がある(「適切な」は費用や判定に要する時間も含む)。
  6. 検査方法が集団に対して適用可能で受け入れやすい。
  7. 目的とする疾病の自然史がわかっている。
  8. 患者として扱われるべき人についての政策的合意が存在する。
  9. スクリーニング事業全体としての費用—便益が成立する。
  10. 患者検出は継続して行われる定期検査にするべきで、「全員を一度だけ」対象とする計画ではいけない。

さて、どうだろうか。(p.242)

 

あと、この本、「小かぎ」がとにかくたくさんあって、ちょっと嬉しかった。ふたつだけ事例を。

 

普通の括弧でフォントサイズが下がった中にある小かぎ(p.11)

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【二重かぎ括弧+かぎ括弧】と【かぎ括弧+小かぎ】が隣り合わせ。(p.83)

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完全に蛇足だけど、小かぎになってないところもいくつか見つけた。スクリプトの自動処理じゃなくて、ひとつひとつ手作業で小かぎにしてくださってたのかと、心が引き締まる思い。

 

小かぎじゃない!?(p.85)

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小かぎじゃない!?(p.117)

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小かぎじゃない!?(p.143)

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小かぎじゃない!?(p.154)

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