さよならの手口

葉村晶シリーズは二作目以降ホラーだったので、覚悟していたのだけど、今回はそうでもなかった。

 

葉村さんが、何とか持ちこたえようとして、でもギリギリ無理な瞬間が、心に残ります。

 

さすがに我慢の限界を超えた。わたしはベッドに身を起こしてわめいた。
「いい加減にしろ。そもそも、うちにはあんたのほうから押しかけてきたんでしょ。(略)」
戸口で大きな咳払いがした。看護師が立っていて、お静かにお願いしますね、と言った。倉嶋舞美は唇を噛み締めていたが、看護師を押しのけるようにして出て行った。
わたしは苦労してベッドを降り、同室の患者たちに騒がせた詫びを言い、カーテンを閉めてベッドを元の形に倒した。横たわって、右腕を目の上にのせて、眠り込むまでの間、少しだけ泣いた。(p.346)

 

あと、葉村さんの心のつぶやき、叫びを引用。

 

「(略)猫好きに悪い人はいないんだから」

そうだったのか。世界征服を企む悪の結社の親玉は、たいてい猫を膝にのせているものだと思っていた。(p.80)

 

「そんなのおかしいじゃない」

倉嶋舞美はいきりたった。ああ、おかしいよ。だから? 四十過ぎまで生きてきて、この世がおかしいってことに、いままで気づかなかったわけ?(p.344)

 

 

さよならの手口 (文春文庫)

さよならの手口 (文春文庫)