- 作者: 森鴎外
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1997/06
- メディア: 文庫
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古い文章なので、例によって二回読む。二回目読まないと内容が頭に入ってこない。頑張って二回読んだのに、なぜだろう誠実さが感じられない。いわゆる「名作」がつまらなかったのは初めてだ。以下のくだりとか身も蓋もないほど正直で、理性では誠実だと思うのだが、どうにも感性がついてこない。
わが弱き心には思い定めんよしなかりしが、しばらく友の言(こと)に従いて、この情縁を断たんと約しき。余は守るところを失わじと思いて、おのれに敵するものには抗抵すれども、友に対しては否とは対(こた)えぬが常なり。(p.90)
「いかで命に従わざらむ」余はわが恥をあらわさん。この答はいち早く決断して言いしにあらず。余はおのれが信じて頼む心を生じたる人に、卒然ものを問われたるときは、咄嗟の間(かん)、その答の範囲をよくもはからず、ただちにうべなうことあり。(p.91)
余はわが身一つの進退につきても、またわが身にかかわらぬ他人(ひと)のことにつきても、決断ありとみずから心に誇りしが、この決断は順境にのみありて、逆境にはあらず。われと人との関係を照らさんとするときは、頼みし胸中の鏡は曇りたり。(p.93)
手記の形式をとっているのがいけないのかもしれない。言葉の端々でつい「こんな風に客観を装って書くなんてずるいなこの人」とか思ってしまうのが良くないのかもしれない。