記憶をコントロールする

記憶をコントロールする――分子脳科学の挑戦 (岩波科学ライブラリー)

記憶をコントロールする――分子脳科学の挑戦 (岩波科学ライブラリー)

ちょっとした雑学くらいの軽い気持ちで手にとったのですが、良書でした。

以下のモデルが分子レベルで確認されているとのこと。

これは一種の記憶の連合です。大震災の体験とラーメンとは関係のない情報だけれども、記憶が連合しているわけです。(略)
前述したように、シナプスに情報が入力されるとタグを作ります。つまり、スパインという突起の根元にあるゲートが数時間開くのです。一方で、シナプスでは初期LTP(EーLTP)が起きますが、そのままであれば、短期記憶で終わってしまいます。
ところが、これらのシナプスのゲートが開いているときに、長期記憶を誘導するような強烈な情報の入力が他のシナプスから入ってくると、シグナルが細胞体の核に送られ、PRPが合成され、すべてのシナプスに輸送されます。このときに、強烈な情報とは関係ない短期記憶をするシナプスのゲートが開いていて、そのため、このシナプスのゲートも長期記憶を誘導する強烈な情報で作られたPRPを取り込んでしまい、短期記憶が長期記憶になってしまいます。(p.90)

これには感動した。このモデルなら確かに色んな記憶の現象を説明できそうな気がする。

ということは、私たちは記憶を書き換えたり連合したり、あるいはアップデートしたりするために、昔の記憶を何らかの方法で不安定にしているのではないかと考えられるのです。(p.99)

何かのために意図的に不安定にしている、という捉えかたが素敵。

ふと、言葉が不安定なのも(厳密に意味を定義しきれないのも)類似のモデルで説明できるのでは、と思った。言葉の不安定さが社会全体としての集合知に上手く適合してるのでは、とか思った。