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キノコの教え

キノコの教え (岩波新書)

キノコの教え (岩波新書)

途中から科学エッセイの範囲を超えてやや宗教がかっているが、それも村の長老の説法みたいで嫌な感じではない。

(略)不思議なことに、キノコが共生する樹木はすべて大木なのである。(p.125)

過酷な環境に耐えられる樹木には、その成長を支えるつ置い菌根菌がかならず随伴しており、それぞれに相性の良い相手が決まっている。(p.130)

ざっくり書かれるとにわかには信じがたいが、たしかにありそうな話だ。知らなかった。

森に暮らすあらゆる生物が子孫を残すためにあがいているのを「かわいい」「おいしい」「きれいだ」といって喜んでいるのは、能天気な人間だけかもしれない。自然の仕組みは、たくさんの歯車が噛み合って働いている精巧な機械のようなものだから、どれか一つが掛けるだけで崩壊する危険性を、常にはらんでいるのである。(p.159)

感情(感情に近い仕組み)は人間以外の生き物にも備わっていると考えるのが科学的に普通なので(人間だけが感情を持ち得る特殊で例外的な生き物だと考えるのは科学的に無理があるので)、人間以外も「かわいい」とか「おいしい」とか「きれいだ」とか感じていると思う。

その話と、自然のバランスが崩壊する危険性の話は、全く別の話だ。人間が能天気でなかったとしても、人間が存在すらしていなかったとしても、いつだって自然のバランスは崩壊の危機にさらされている。カンブリア紀の大爆発があったし、植物は陸上進出したし、昆虫や恐竜や哺乳類が大量発生した。

そしてさらに、これら過去に起こった「自然のバランスの崩壊」と、人類の大量発生による急激な環境破壊は、まったくレベルが異なる話だ。これはもうバランスを維持するとかの話ではなく、単なる「破壊行為」に近いと思う。

こういう話は、もう少し科学的・理論的に誤解のないように長い文章を使って書いてくれないと、「地球温暖化って言うけど過去にも氷河が溶けだしたことはあるでしょ」とか「恐竜の絶滅を思うと絶滅危惧種なんて大した話じゃないでしょ」とか、中途半端な理解で賢いふりする人が増えるので、困る。こんな短い文章で人類の悪について語られても正直戸惑う。

すでに述べたように、植物は共生の原理に従って進化し、動物は餌をめぐって競争の原理によって進化してきた。(p.215)

うまいこというなあ、と素直に共感。でも植物にとっての餌(主食)は日光で、日光を独占するために高く伸びる森林の樹木は、明らかに「競争の原理」で進化している。結局のところ「共生」と「競争」は対になる概念ではないのだと思う。

学生たちを見ていると、意識するしないにかかわらず、心の底で悩んでいるように思える。自分たちの将来が暗闇の中に突入していくような時代に生きている若者の不安を、今の大人たちが彼らと意識を共有し、その心を理解することがあっただろうか。(p.224)

キノコどこいった、と突っ込みたくなる展開だけど、主旨はよくわかる。途中、科学的でなかったり、論理の飛躍があったりして戸惑うが、総じて「良い本だった」と思う。