- 作者: 乙一
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2001/07/19
- メディア: 文庫
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「A MASKED BALL ――及びトイレのタバコさんの出現と消失――」が面白い。飄々としていて、かといって軽率ではない主人公が魅力的。ミステリーとしての完成度のことはよくわからないが(前川先生が都合良く現れたり)そういうのを全部飛び越して単純に面白かった。ああ、こういうのが読みたかった、と素直に思った。「a masked ball」の意味がどうにもわからずウェブで調べたら「仮面舞踏会」だった。
(2/19 追記:前川先生が都合よく現れたりした件について、昨日朝ごはんの途中で、唐突に、気付いた。理解した。読み直したら確かにそうだった。すっきり納得。)
「天帝妖狐」も好きだ。こちらは「面白い」というより「好き」だ。
包帯が使い物にならなくなれば、布切れで顔を覆い、垢を落としたければ清らかな川に入りました。ごみをあさって衣服を手に入れ、捨てられていた本から知識を得ました。(p.174)
こういう文脈でちゃんと「知識」とあるのが素敵。うまく言えないけど「この作者の文章は細かいところまで信じて大丈夫なんだな」と思える。最後の白々しいほどまっすぐな文章も素直に心に入ってくる。こういう小説が好きだ。
もしも私が人間であったなら、ずっとあなたのそばにいたかった。さようなら、ありがとう、私に触れてくれた人。(p.242)
あと、解説に引用されていた栗本薫の文章を孫引き。栗本薫って偉大な人物だったのだなあ。
(略)そのあともし「二十すぎたらただの人」になってもそれはそれでいいのです。神童であった、というのはひとつの重大な奇跡なのですから。(p.248)