- 作者: 松尾由美
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2005/10
- メディア: 文庫
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無茶な設定だが物語は実に素直に展開。以下のくだりを読めただけでも価値ありと思う。小学校五年生でこの台詞。素晴らしい。
「そう。ぼくの誕生日なんだから、いいでしょう?」
「そりゃ、いいけど――ずっと欲しがってたゲーム機の代わりに、年代物の椅子を買ったっていうわけ?」信じられないようにあちこちながめまわし、「それであなたは後悔していないの?」
「してない」
衛は心から言った。緑のシートに腰をおろし、ゆるく曲ったひじ掛けに両手を載せ、ダイヤ模様を彫りぬいた背もたれに上半身をあずけて、
「この椅子を買って、本当によかったと思ってる」母さんにそう教えた。「満足してるんだ」
四十年生きてきて、誰かに「満足してるんだ」なんて言えたことがない。
推理小説としてのディテールには色々と難があるのだと思う。たぶん「構図・デッサンは素晴らしいのにディテールが駄目」的な小説なのだと思う。逆の場合(ディテールの描写は素晴らしいのにデッサン狂ってる)とどちらが良いかと言うと、楽しいのは間違いなく後者だが、二者択一なら個人的には前者を推したい。まあ、世の中は二者択一ではないので、無意味な問答なのだけど。
読んでて正直つまらなかったのだけど、それでも最後まで読んで、「ああ良い話だった」と思えた。こういうのって素敵なことだ。次は推理小説以外のジャンルで読んでみたい。